中井俊作さん訪問 前半

 2月の下旬、片岡さんの古いご友人である中井俊作さんを訪ねに、天草へ向かった。片岡さんには、1日で逃げ出すかもしれないと伝えておいた、と言われたが、風呂も布団もあるならきっと大丈夫だ。中井さんは目がよく見えず、自分の面倒を見るので精一杯なだけで、風呂でもなんでも自分で薪をとってくるのなら、好きなだけ入らせてもらえるだろう、そう考えていた。しかし、中井さんの徹底した節約生活を目の当たりにしたら、そんなことは言えなくなる。風呂は継ぎ足し、炊いたご飯は発泡スチロールの箱に入れて翌日まで保温、大根は汚れを落として葉の付け根まで食べる。継ぎ足し風呂を使うのには抵抗があり、風呂に入る時間の余裕もなかったので、妥協案としてペットボトルに井戸水を入れ、風呂を沸かすついでに湯船で湯煎。そのお湯にタオルを浸して体を拭いた。それをしたのも2日目のみで、髪はかつてないほどぺしゃんこに。風呂に入りたい、その一心で4日間、気持ち悪さに耐えた。

 これだけ聞くと、なんと苦しい生活を、と思われるかもしれないが、中井さんは自分のしたいことには他の人と同じようにお金をかける。ラジオだって聞くし、本や雑誌は惜しまず買って蔵書は今や数百冊だ。母屋の廊下、離れの部屋の床、至るところに本が置かれ、さらには図書室まである。図書室があるのはかつて役場として使われた建物で、1階には図書室と宿直室、2階にはもう一つの宿直室と物置、昔の農機具が置かれた集会所が。しかし、ほとんど活用されることなく本も埃をかぶったまま。中井さんはここをみんなが集まれる場所、学べる図書館にしたかったが、日々の生活に追われて、そこまで手が回らなかったという。同じ本好きとして非常に残念だと思った私は、宿直室を掃除することに。これから、中井さんの「農は人権」という考えを学び旧役場を活用しようツアーで来る人には、これは屋根のあるキャンプだと思ってもらって、ドライシャンプーでも持ってきてもらおう。宿直室のシャワーは後々直せばいい。寝るところがちゃんとしていれば気持ちよく滞在できるはずだ。私は母屋に泊まっていたが、野良猫が入るため長い間きちんと換気ができておらず、少々かび臭い。カビアレルギーの私は喉がイガイガしてしまうのだ。

 日中はほとんど宿直室の掃除をしていたため、中井さんの住む離れに行くのは食事の時だけだった。さすがに1日掃除をしていてはおなかがすくので、私はおやつ休憩をとっていたが、基本的に食事は1日2回、主食は玄米で、煮物や漬物などと一緒に食べた。固いと言われる玄米も、柔らかく炊けば意外といける。中井さんお気に入りの、たくあんにマヨネーズという組み合わせは、なかなか悪くない。魚のあらと大根を切って、ゆずとしょうゆを適当に入れた煮物も、結構おいしかった。中井さんの、水は高いところから低い所へ流れる、より多く持つ者が少ない者へ分け与えるという考えに基づき、今回、学生の私にはおかずを用意してくれた。私の方が普段はずいぶんと贅沢な暮らしをしているのだが。

 食事をしながら、中井さんが考えていることや今までの暮らしについて、いろいろと話を聞いた。自分の食べ物を自分で作っていない奴はみんな泥棒だという言葉に感銘を受けたこと、この世から武器をなくしたいと思っていること、自衛隊を災害救助部隊として再編成し、全国民が一度は訓練に参加するようにすれば、それが災害時の備えや人々の出会いの場にもなるだろうということ、みそや漬物は作っても世界中を見て回りたくて、手間のかかりすぎる醤油は買うことにしたこと、アフリカに行ったときは、現地の人と一緒に濁った水を容器いっぱいに入れて頭に乗せて運んだが、自分は途中でへばってしまったのに、自分よりも小さな女の子がそれをやってのけることに驚いたこと、半世紀も前は害のある食品添加物やヒ素ミルク事件なんかがあって、信用できない食品も多かったこと、都会に出たときは、家族で食べるセブンティーンアイスが楽しみだったこと・・・。