養鶏

養鶏

<歴史>
2015年に農園内に鶏舎を建て、自給養鶏をはじめました。
山口市に住む戦前生まれの師匠から学び、身近な材料で健康的に育てられる養鶏を営んでいます。
戦時中に飢餓の悲惨さを思い知らされた師匠は、有事に備え「人と鶏が競合しない養鶏」を長年続けてきました。
具体的には、人間社会の中で廃棄されるものをゴミとして捨てずに利用し、鶏を健康的に育てます。
鶏は「庭の鳥」と師匠は言いました。
その教えに沿い、遠くから輸入する飼料や資材に頼らず鶏を育てていることが最大の特徴です。

<飼育方法>
一般的な飼育方法であるゲージ飼いに対し、楠クリーン村では平飼いで飼育しています。
つまり、囲われた狭い空間ではなく、風通しと日当たりの良い解放型鶏舎が鶏たちの住まいです。土の上を走り回り、地面を啄みながら餌を探す、鶏の生態にできる限り近い環境づくりを心掛けています。

<特徴>
【餌について】
自家製の配合飼料を与えています。
飼料の原料は、
・自家栽培のお米
・近隣で出たくず麦やくず米(小さくて販売にまわらない麦や米のこと)
・魚屋さんで出る魚のアラ
・豆腐屋さんで製造過程で出るおから
・精米後に出る米糠
・牡蠣殻
・砂
これに加え、発酵促進のために山で採れた腐葉土を一緒に混ぜ合わせ、熟成させ、発酵飼料として完成させます。
砂と聞いて驚いた人がいるかもしれません。
鶏には歯がなく、代わりに砂ずり(砂肝)で餌をすり潰したあと消化します。餌の中に入れている砂は、すり潰すために重要なものなのです。

一般的な養鶏場では、細かく潰した消化吸収しやすい、栄養価の濃縮された餌を与えています。
それにより産卵率を最大限引き上げるという方法です。
人間の生活に例えると、シリアルとサプリメントで栄養を取っているようなイメージです。
比較して、楠の鶏は「粗飼料」といって質素ながら健康的な、玄米・納豆・魚・野菜を毎日食べているような生活を想像して頂くとわかりやすいと思います。

【緑餌について】
もう一つの重要な餌は、緑餌(りょくじ)です。
具体的には、山で採れる青草や野菜くず(白菜の外側など販売にまわらないもの)を毎日欠かさず与えています。
人にとって野菜が重要な栄養素であるように、鶏にとっても緑餌がビタミンなどを補給する栄養源なのです。
なお大規模養鶏では、草を毎日与えることはできないためビタミン剤などを与えるのが一般的です。

【薄飼い】
一般的な平飼い養鶏は一坪50~60羽が目安と言われています。
比較して、私たちの鶏舎では一坪10羽以下に抑えています。この飼育方法を「薄飼い」と言います。

薄飼いを取り入れている理由としては、広々とした鶏舎で走り回れることで鶏のストレスが減ることが第一です。
鶏同士は喧嘩をすることがよくありますが、過密だと逃げ場がなく、これもストレスになります。
また、密集していると風通しが悪く、病気が発生した際に広がりやすいことも大きなリスクになるので、そうした環境をできる限り避けるようにしています。

【鶏舎】
解放型の日当たり、風通しが良い鶏舎です。
鶏舎内には、日向と日陰がバランスよくあり、鶏は体調に合わせて移動します。

地面が土であることが大切な要素です。
土がある場所で、鶏は砂浴びをします。
砂浴びは、鶏にとってのシャワー。土があることにより、汚れや寄生虫を払い落とすことができます。
 
その他、土は、動物が生きるために必要な湿度を保持していますし、鶏が耕すことで鶏糞が飼料や土と混ざり、自然に土に還るため、腐敗せず衛生的な環境が維持できます。

鶏舎内には、すべての鶏が止まれるだけの止まり木を用意しています。
鶏の習性として、本能的に地面より高い場所があることで安心して眠ることができます。
また地面に溜まった湿気の中で過ごすと病気になりやすいため、病気対策の意味もあります。

【嘴について】
一般的には鶏同士のつつき合い防止のため「断嘴(だんし)」を行いますが、楠の鶏は固い餌や緑餌をつつくことができるよう、断嘴をしていません。
嘴を残すことで、鶏が羽づくろいすることもできます。

【雄のいる環境】
雄と雌の鶏を一緒に育てています。
結果として、卵は有精卵になります。

雄が仲裁することで雌同士のつつき合いが減り、精神的なバランスがよくなる印象です。
自然な環境に極力近づけるという考えのもと、雄と雌を一緒に育てています。

【産卵率について】
粗飼料と青物を食べ、たくさん走り回りカロリーを消費しているため、産卵率が一般の養鶏場に比べて低くなっています。
また、鶏は気候の影響を受けるため、夏場は食欲が落ち、それに伴い産卵率が落ちることもあります。
商業的に考えると非効率と言えますが、これらはすべて自然なことですし、産卵率が低いことで鶏の身体の消耗がゆるやかになります。
なので定期便や配達のお客様には、夏場は安定的な供給ができない可能性があることを理解頂いた上で、注文を頂いています。

最後まで、目を通して頂きありがとうございました。
鶏の健康を考えると、どれも当たり前と感じられた方が多いかもしれませんが、スーパーで買う卵やお肉ができあがる過程は、あまりにも人間の都合に合わせすぎたものが多いです。
鶏たちは、私たち人間に対して「何が健康で、何が自然か」を教えてくれます。