くすのき定住8年目日記 No.3
”生きる”ことの基本を教えよう
高田夏実
ある人が書いた言葉に、感銘を受けた。
「娘よ、お前には父さん母さんが”生きる”ことの基本を教えよう。太陽と空気と土と水さえあればこの広い地球のどこでも過ごせるように。」
この言葉には、親の子どもへの願いがギュッと込められているなぁと感じる。
昨年の8月、我が家に第一子が誕生した。子どもが産まれる前のことが思い出せない程、生活が激変した。大変なことも、感動することも山盛りで、心も身体も毎日慌ただしい。
子どもの顔を見ていると、わが子に何をしてあげられるだろう、と思う。そんな中でとっても共感したのが、冒頭の言葉だ。
私も、それを子どもに教えてあげたい。
教えてあげるなんて、おこがましいかもしれないけれど、楠の暮らしからそれを感じ取って、楽しみながら自然に学びとってもらえたらいいなと思う。
子どもが産まれて気付いたことだが、楠クリーン村の真価はこれから益々発揮されるのではないかということだ。
実は、山口に来てから出会った人や、横浜の地元の友人たちの家族に同い年の赤ちゃんがたくさんいる。だから、自然と話題が子どものことになるのだが、皆子どもを連れて楠に来たいと言ってくれる。私の友人だから「類を友を呼ぶ」なのかもしれないが、自然の中で子どもに色々な経験をさせてあげたい、生きる力を身に着けて欲しいと願う親はとても多いように思う。
そしてその原点にあるのは、どんな時代が来ても、強く幸せに生きて欲しい。親としてそれを学べる環境を子どもに用意してあげたいということだと思う。
不確実な時代を生きていかざるを得ない子どもたちの親だから、その願いは強まっているのではないか。
そんなことを考えていた中で冒頭の言葉を読んで、改めて楠に来て良かったと思った。なぜって、生きることの基本を学ぶには、最高の環境だから。
それに、もっともっと私自身が自然の中で生きることを深く知り、生活に取り入れていくことができれば、その環境は更に素晴らしいものになる。
そういう希望を感じられる環境で子育てできることは、幸せなことだ。
冒頭の「ある人」は、天草に住んでいる中井さんという方で、もうすぐ80歳になる。この文章が書かれたのは、1986年のことだ。
中井さんの生活と比較すると、私たちの生活ってなんて優雅なんだろうと思ってしまう程、ストイックな自給自足と節約生活を続けてこられた方だ。先祖から引き継いだ山を管理しながら、環境課題をはじめとする社会問題を見つめ、現在に至るまで自身の生活を徹底して見つめ直しておられる。
買うものは、醤油・塩・油の3つに限定し、車もほとんど使わず、時間をかけてでも公共交通機関を利用して移動する徹底ぶりだ。80歳になろうとしている今も、移動は青春18きっぷ。旅に出る際の食事と寝袋は持参して、相手にも負荷をかけないということまで徹底していると聞いた。
SDGsと唱えて、自身の生活を一切顧みない人には是非感想を聞かせて欲しい。なーんて、私も偉そうに言えないくらい、本当に私の暮らしはまだまだ贅沢なものだと思った。並の感覚でここまでやるのは困難だとしても、とにかく、すべては自分を見直すことからなのだと、グサッと刺された気持ちになる。
今度、楠クリーン村のインターン生が中井さんのところにお邪魔することになった。今まさに話を聞くべき人だと思ったので、林業に関心のあるインターン生が山のこと、林業のこと、環境負荷のこと、生き方のことなど含めて取材し、記録しようということになったのだ。
この社会情勢の中で、自分はどう振る舞うべきなのか迷っている人は、訪問報告を楽しみにしていて欲しい。
こういう話をすると、お金を無視するのは良くないと諭されることがあるが、決してお金を無視するつもりはない。むしろ少ないお金で生活しているからこそ、お金の大切さは、切実に感じている。どんなに自給率があがろうとも部分的にお金が必要だと思っているし、お金から100%脱却することを目指しているわけでもない。
しかし、子どもを育てる上で私が大切にしたいことは、お金を用意することではなく、子どもが自分の力で長きに渡って幸せに生きて行けるような心持や知恵を育んであげたいということで、そういう意味で楠の環境はプライスレスだと思うのだ。
これに対する反応は様々だと思うが、人の営みを自然の方にグッと呼び戻す必要があることは確かなことだ。今の状況が今のまま、続くわけがない。これからの時代のバランスを、私は自然の力を借りて自給することから実践して発信し、自分の暮らしに納得や楽しみを見出しながら地球サイズ暮らしをする仲間を増やしていこう。その「仲間」は子育て世代にこれから広がっていくのではないか。それが今の大きな楽しみだ。