シリーズ イノシシ               第4回「“イノシシ”対策よりも“人”対策」

後藤です。

国は毎年100億円を超える予算を投じているのに、なぜ、農作物の被害は減らないのか?その答えのヒントを、たっつぁんが「いつか行ってみたい」と話す島根県の美郷町の取り組みに見てみたい。

島根県美郷町(美郷町 HPより)

美郷町は人口およそ4400人、高齢化率48%、中国山地の山あいにある小さな町だが、補助金には一切頼らず、イノシシを資源とした身の丈の地域おこしに成功し、全国に名を馳せる町である。美郷町のホームページにはこんな物語が‥。

https://www.town.shimane-misato.lg.jp/misatoto/stories/004/

取り組みが始まった20年余り前から一貫しているのは、常に主役は町民だということだ。

まずは、農家の人自身が狩猟の免許を取って箱ワナでイノシシを捕獲できるようにして、捕獲量を増やす仕組みを作った。(これには農家の女性も参加、“元祖狩りガール”は80歳に

なった今も活躍し続けている!)

その後、町民が1万円ずつ出資して生産者組合を立ち上げ、食肉事業に着手。生きたまま搬送して鮮度を保持し、旨味を保つことで、消費者から敬遠されがちな夏場の肉の流通促進にも成功した。

2017年には、移住してきた若者が株式会社「おおち山くじら」を設立。イノシシの煮込み料理の缶詰を製品化、町民の皆さんが担い手となり、ポトフやカレーなど年間約1万個を出荷している。

皮革商品の製造販売も事業化し、料理の得意な人、裁縫の得意な人など、町民の活躍の舞台を広げている。

さらに、鳥獣害対策の専門家とともに「100歳までイノシシやサルがいる町で楽しく農作業ができる畑」づくりにも取り組み、目からうろこの新しい工夫や挑戦を続けていて、県外の企業や大学などから連携を求める声も相次いでいる。

一切、補助金に頼らず、町民一人ひとりの力を生かせる場・生きがいを次々に作り出すことで町全体を元気にしてきた美郷町。この20年、町の地域おこしを中心になって担ってきた山くじらブランド推進課長、安田亮さんに聞いてみたくなった。

美郷町山くじらブランド推進課長 安田亮さん

国は毎年100億円を超える予算を投じているのに、なぜ、農作物の被害は減らないのか?

宇部市から美郷町までは車で3時間半、すぐにでも行ってみたいところだが、コロナ禍でもあり、電話で話を聞かせていただいた。

答えは明快だった。

「国が打ち出す鳥獣被害対策は“イノシシ”をどうするかを考え、“人”をどうするかを考えていないから」。

安田さんは、かつてこんな文章を記している。

「地域おこしは人おこし。野菜作りと同じで土壌づくりが大切。それがないまま、促成栽培の弱々しい苗を植えて補助金という追肥をしても育たない。住民自らがボランティアではなく、お金を生み出す構造を作り出すことが不可欠」

「補助金ありきの画一的な取り組みは、短期の表面的な成果を要求され、行政主導のブームを生み出し、住民主体の創意工夫の芽を摘み取り、地域の個性と主体性を形骸化させる」

イノシシ被害にあえぐ過疎の町という原点は同じでも、それが農家のやる気を失わせ耕作放棄地を増やし、さらにイノシシが増えるという負のスパイラルに陥ってしまう地域と、美郷町のようにそれを逆手にとって大きな正のスパイラルを巻き起こしている地域。カギを握るのは、さまざまな利害関係を超えて、住民の役割を作り出し、楽しさを力に変えていく内発的な創造性があるかどうかだ。

「美郷町のさまざまな取り組みはすべて下から作り上げたものです。縦割りの補助金に振り回されたり、一時的なブームで終わったりすることはありません。さらに、取り組みは次々に新しい可能性を開いていくから、いつまでたっても現在進行形。だから、全国から視察のリピーターが絶えないんです」。

安田さんの軸は、決してぶれない。

安田さんから「新型コロナウイルスの猛威が収まったら、ぜひこちらに来てください」と声をかけていただいた。はい、行きます! たっつぁんや楠クリーン村の仲間たちと一緒に行かせていただきます!

ただ、行って学んで真似をするだけではダメだ。私たち自身の内発的創造性が問われることになる。「獣害対策は地域づくりのバロメーター(診断書)」、安田さんの言葉通りだ。危機をチャンスにつなげられるか、私も里山の現場から地域の人たちと一緒に知恵を絞っていきたい。

           

半年前、東京で暮らしていた時にはほとんど私の意識に上ることのなかったイノシシ。これから、ますます身近な存在になりそうだ。師匠のたっつぁんからも、もっともっとたくさんのことを学びたい。

たっつぁんによれば、イノシシたちはすでに今、春を迎える前の楠クリーン村の竹林で、土の下のトリュフならぬ、大好物のタケノコの小さな芽を自慢の鼻で掘り返し、日々堪能しているのだとか‥。イノシシ、恐るべし!

<参考資料>

「鳥獣被害の現状と対策」農林水産省 農村振興局

https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/attach/pdf/index-27.pdf

「いま、獲らなければならない理由~共に生きるために~」環境省

https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5/imatora_fin.pdf

「有害鳥獣の捕獲後の 適正処理に関する ガイドブック」

https://www-cycle.nies.go.jp/jp/report/pdf/choju_tekisei_guidebook.pdf

「知ってほしい鳥獣被害現場の実態」総務省

https://www.soumu.go.jp/main_content/000463740.pdf

捕獲鳥獣のジビエ利用を 巡る最近の状況

https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/attach/pdf/suishin-9.pdf

島根県美郷町HP 野生のイノシシが呼び起こした「町の個性と底力」日本で唯一になった美郷町、移住者と未来へ繋げるおおち山くじら物語

https://www.town.shimane-misato.lg.jp/misatoto/stories/004/

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