「自給一足」はじめました

自給一足家 高田穣(楠クリーン村 高田の父)

昨年、ずっと住みたかった地方の海辺の町に移り住み、まず自分たちの食べるものの一割を自給するという「自給一足」を始めました。

移住前には、庭の野菜とすぐ前の海の魚で食料の六割を自給する「自給六足」を計画しましたが諸々の想定外が発生、とにかく「はじめの一足」を踏み出そうと、この春小さくスタートを切りました。最近になりようやく夏野菜の収穫が始まり、キュウリ、トマト、かぼちゃ、ズッキーニ、ナス、オクラ、甘長とうがらし、唐辛子、ネギ、リーフレタス、バジル、シソ、パセリ等を収穫しています。

今のお気に入りは、朝食にリーフレタスやバジル、キュウリやトマトなどその時々の野菜を採ってきて、軽くトーストしたパンにチーズと一緒に挟んで食べる手巻きサンドです。暑い日には、まだ青い唐辛子を半分程みじん切りにしてふりかける季節限定ピリ辛バージョンも夏にぴったりで美味です。採りたて野菜はどれも新鮮で美味しいですが、特にバジルやシソ、パセリなど香り系野菜はスーパーで購入するものとは別物で絶品です。

最近、異常気象による農作物被害の多発に加え、ロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギーに並んで食料安全保障問題がにわかにクローズアップされています。日本の食料自給率(カロリーベース)は37%まで低下し、政府はこれを2030年に45%にする目標を打ち出していますがその達成すら疑問視され、一部の専門家からは飢餓のリスクまで指摘されています。

こうした問題は、もちろん国の政策が重要ですが、同時に個人や企業がボトムアップで自ら考えて行動することが大切だと感じます。そのはじめの一足として、少量でも自分の食べるものを作ってみる、可能であればそれを増やしていく、同時に日本の食料自給や農業政策、食の安全や食品ロス等の食料問題に関心を持つことは重要なことだと思うのです。小さな庭でもマンションのベランダでも、食べるものの一割の「自給一足」を目指すということなら、それほどハードルは高くないと思います。ロシアではダーチャと呼ばれる郊外の菜園を多くの市民が保有し、これがソ連崩壊時の食糧危機を凌ぐ力になったとも言われています。災害や地政学リスクへの備え、食への関心を高める意味で、「自給一足」という小さな歩みを始める意味はあると思っています。

【↑我が家の自給一足菜園】

食への関心という点でも、実際に野菜を作り始めて気づくことはたくさんあります。

例えば生産者の視点を持つことで、消費者としての目利き力が向上するということです。農薬などを使わずに野菜を作ってみると、少しキズがあったり虫に食われたり形が悪い野菜が出来たりもします。恐らく売り物にはならないこんな野菜たちも、問題なく美味しく食べられます。それと引き換えに安心・安全が手に入ることを理解すると、食品を買う消費者視点も変化します。目利き力を持つ消費者が増えてニーズが変化すると、生産者もそれに合うものを生産することになり、食べられる野菜を廃棄したり見た目をよくするために無駄なコストをかけたり不要な薬剤を使用することが減るのではないでしょうか。

また、この先の課題として、本当の自給のためには現状輸入に依存するタネや肥料の自給まで含めて考える必要があるとも感じています。

 とにかくまだまだ始めたばかりの「自給一足」ですが、これからも無理をせず楽しみながら試行錯誤し、また、食べる分だけのミニマム魚釣りにも挑戦したいと思っています。