シリーズ イノシシ              第3回「捕獲されたイノシシの半数以上が「廃棄物」=ごみに!」

後藤です。

全国の自治体を対象にした調査によると、捕獲されたイノシシのうち、ジビエ料理など商業用に利用されているのは全体の1割~2割、猟師さんによる自家消費が4割ほど、残りの半数以上が「廃棄物」=ごみとして処理されているというのだ。

そのうち7割は山からの搬出作業の大変さもあって捕獲した現場に埋設されているという。埋設する場合は、他の野生動物が掘り返さないようにスコップで1~2メートル以上の大きな穴を掘る必要があるが、負担が大きく、浅めの穴を掘って土をかけるだけ、というケースも見られ、ほかの動物が掘り返すなど問題になることもあるという。

「有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブック」より

農林水産省によると、イノシシやシカによる農作物の被害額は全国で年間およそ160億円に上る。せっかく育てた農作物が収穫直前に被害にあって、農家の人たちが農業を続ける意欲を失い、耕作放棄地が増加、それがさらにイノシシの生息域を増やすという悪循環が起きている。

そこで捕獲した人に市町村が出す報奨金に国が上乗せするなど、対策を強化し、捕獲数は年々増加、2020年度は全国で約68万頭のイノシシが捕獲された。その一方で、捕獲した個体をどう処理するかが大きな課題となっているのだ。

以下は、東北地方のある市が、イノシシを捕獲した人に向けてホームページ上で清掃センターへの搬出方法を説明した文章である。イノシシが「ごみ」とされているのがなんだか悲しい。

解体するときに見たオスのイノシシの6か所の傷を思い出す。人間にとってイノシシは農作物を荒らす困りものの有害鳥獣には違いないが、懸命に生きてきたであろう一つの「命」である。捕獲した命、せめて大切にすべていただくことはできないものか。

こうした現状をたっつぁんはどう思っているのだろう。

話を聞いてみたら、たっつぁんもずっとこの問題に頭を悩ませていて、「なんとかせな」と思っているところだという。たっつぁん自身は、これまでに仕留めた数百頭のイノシシの命を1頭たりとも無駄にしたことはないというが、地元の猟友会でも、捕獲したイノシシを自分で解体できるのは3人に1人ほど。市に加工施設を造ってほしいと何度か要望にも行ったこともあるが、検討は進んでいないとのことだった。

実は農林水産省は鳥獣被害の防止に力を入れるとして、10年前から対策交付金の額を大幅に増額し、毎年100億円を超える予算を投じてきた。2022年度は120億円の予算を計上している。捕獲にかかる費用の直接支援のほか、ジビエの活用を進めるための処理加工施設の整備にかかる費用の補助など、さまざまな対策が講じられてきてはいる。

しかし、100億円を超える予算を投じてもなお、ここ数年、野生鳥獣による農作物の被害額は160億円前後で変わっていない。一体、なぜなのか?

 (第4回に続く)